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文庫のモノ

 先日、大手出版社の社長が図書館関連のつどいで「図書館に文庫を置かないでほしい」旨を発言したそうだ。出版業界の中でどうやら文庫は収益を支える柱になっているそうで、売上に支障が出ていると考えているようだ。まあ出版社としては、そういう側面もあるのだろうかな。今日返却に行った図書館で新刊の棚を見てみると、幾冊か文庫が入っていた。(昨日の今日じゃ、忖度でもあるまいしね)

 いろいろな考えの人もいるだろうなぁというところで、私がよく行く図書館での文庫との出会いは、その図書館の新築時であった。「なんだよ、この図書館、文庫本コーナーがあるよ!」 というのが昭和60年代後半であった。昭和60年代は4年余りしかないが。
 それまで通っていたのは隣接区の図書館であった。もう少し小さい頃は、公園に毎週「移動図書館」というものがワゴン車でやってきて、その中の好みの本を借りられる形であった。当時小学生であった私にとっては、それは楽しい時間であった。自転車もいらずに、気楽にいく公園に毎週違った本が、それも大量に来るわけなのだ。毎週(だったのかなぁ)違う本を、興味のあるなしはさておき、見られるという経験は、当時とても新鮮に感じられたものだ。
 その移動図書館にも隣接区の図書館にも文庫本は置いておらず、(もしくは気付かなかっただけなのかもしれないが)新しい図書館でのその出会いは私にとって文化的衝撃だったといえよう。
 文庫本を知らなかったということではない。いままでなかったものが突然現れ、それも館内に立ち入って最初に見る棚が雑誌の棚と文庫の棚であるということであった。
 当時、私の読んでいた文庫本はだいたい300~400円でおつりをもらえるぐらいのものであった。ちょっと大人っぽい○○ノベルズといったミステリーや軍記物のような本(文庫より大きい)が600~700円ぐらい。ハードカバーは1000円よりしたと思う。分野については、物語やミステリーなど小学生が読める程度のものと考えていいわけだが。少しは背伸びをしてみたかもしれないが、内容は理解はできなかったことと思う。

 図書館で文庫を見て思ったのは、「今まで見たことのない本がある」ということだった。当時、SF作家の眉村卓さんのファンであって(いまもだが)『午後の楽隊』(集英社文庫)という文庫があった。今手元にあるものも昭和59年初版の文庫があるので、時代背景として違っていないと思う。まだまだ知らないものがたくさんあるのだ、ということを目にした自分がいた。そして文庫には文庫の、単行本には単行本の、雑誌には雑誌の、専門書には専門書の読み方、楽しみ方、活用の仕方があることに気付いていったのが中高校生のころからだろうか。
 その後、文庫でしか出版されないという本も目にしていた。

 一方で最近、新しい文庫とのふれあいができた。それも図書館で。
 学生時代、何度も挫折した近代文学である。昭和60年の前後から、本・新聞などで活字が読みやすくなってきていた。活字を読みやすいものにし、行間を少し開けた書き方をしてきたのだ。それでも学校教育などで反抗的にもなっていた古典に対し、興味を持てなかったことも事実で、受験が終わるともう、日本語として現代語以外を使うことはなくなっていた。
 この数年で「古典」ということを唯一意識したのは、ある皇族が新聞で連載をしていた中で、ちょっと時間が開いたからたわむれにかばんの中にあった伊勢物語をベッドに転がり読んでいた、という記事を見て、どういう生活なんだ? と自分の生活と対比しつつも、その伊勢物語というのがどういうものであったのかすら(そりゃ、「男ありけり」ぐらいは覚えていても、それは物語の中身とは言えないわけだ)覚えていないということに唖然としたことから、昔読めなかったものを読んでみてもいいのではないかな?(それほどでもないかな?)と思ったきっかけなのだろう。

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 そんな中、最近手に取ったのがなぜか、『ふらんす物語』(新潮文庫・永井荷風)であった。ページを手繰ってみると、読みやすいではないか。行間が詰まっておらず、また文字が大きい。最近使われないような漢字にはかながふってある。旧かなづかいが現代仮名づかいに直されているわけだ。いつからの風潮なのだか知らないのだが、私にはとてもありがたいことだった。読書の楽しみの幅が、また広がったわけだ。
 このような編集の妙を楽しめるのも文庫の良い点といってもいいのではないだろうか。私にとっては、今年一番の邂逅といっても過言ではない。
 
 「読書の秋」、のひとこまである。


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